台所の隅の暗がりに転がっているじゃがいもが芽を吹きかけている
芽になるのか、根になるのか
未分の吹き出物とも腫瘍ともつかぬ塊がぐじゃぐじゃと生えてきて
表面がうっすらと緑を帯びてくるのは
乏しい微光でも葉緑素を作るからか、芽に蓄えた青酸が滲んでくるからか
植物にも意志がある
生き延びる意志が葉緑体を作り、喰うものへの殺意が毒を作り
1ミリ伸びるごとに皺ばんで芯から爛れていく
腐りつつ、芽を伸ばし、根を延ばし、
光を求めて青ざめ、闇を探って生白く
喰われることへの怖れと死滅への怯えで慄えながら突起が膨らみ
芽生えつつ萎びつつ
芽は光を求め、根は闇を探り、
芽であり根であり、増殖する腫瘍である
湿りと乾きを、光と闇を、ふたつながら索めて
その背反のあわいで腐敗が再生へ捲れ返り、
生と死の両極へ裂け、
不死と未生へ裂け
その裂け目に糜爛が広がる