断首と失神

 
四歳のわたしは、
近所の小母さんが軒下に据えた押し切りで鶏の首を刎ねるのを見て、失神した。 
頭のない鶏が小走りに数歩走ったのを見た後だったという証言もある。
 
刎ねられた首から血は吹き出なかったか。
鶏は血を撒き散らしながら走ったのか。
 
青ざめて声もあげずに失神したわたしが、何分後に覚めたのか。
その日からの夜々、うなされなかったか。
 
細部の明瞭な記憶はない。
なにもかもは後に聞かされてできた偽記憶ではないか。
あるいは、未だに失神から覚めていないのか。