誘拐事件

 
麦畑の中に雲雀の巣を見つけ、雛をさらった。
鳥カゴに雛を入れ、庭の柿の木の枝に吊した。
親鳥はそれを探し当て、餌を運んできた。
健気な親鳥は日に何度も何度も通ってきて、金網越しに餌を与え、
雛はすくすく育った。
 
十数日後、親鳥が鳥かごを遠巻きにして鳴き騒いでいた。
蛇が、鳥カゴの中にとぐろを巻いている。
 
蛇は金網からするりと侵入し、雛を丸呑みにした。
胴がテニスボール程にも膨らんで、蛇は金網から抜けられなくなり、
そのままカゴの中で眠りこけている。
 
親鳥は鳥カゴの外からその凶行を見ていた。
激しく地団駄踏むように羽ばたき鳴き叫んでも、止めようはなかった。
 
ああ、可哀想なことをしてしまった。
無益な殺生をひきおこしてしまった後悔を、蛇にぶつけた。
殺して裂いた蛇の腹から半分溶けた雛が出てきた。
二つの遺体は庭の隅に埋めた。
親鳥は庭の柿の木の枝からそれを見届けて、飛び去った。