よく絞った濡れタオルを小さく畳んでシリコン製の器に入れ、電子レンジで30秒加熱すると、六十度ほどの蒸しタオルができる。熱くて触れず、じっと持ってはいられないから、親指と人差指でつっつくように摘んでは離し摘んでは離ししながら、畳んだタオルを広げ、二枚折りに戻した数秒後には、なんとか摘んでいられる五十度ぐらいまでに下がるので、仰向けた自分の顔にタオルをかぶせる。火傷しそうなほど熱い。散髪屋が熱くて持てずにお手玉しながら取り出したお絞りを顔に被せ両手で押し付けると、その瞬間は何をしてくれるのだと払い除けそうになるほどの熱さで息が詰まるが、あれと同じことを自分でやるわけだ。外気に晒されて冷えた顔の皮膚と熱いタオルとの狭い隙間に蒸気が満ち、気化熱の放出と体温への吸収でタオルの温度はみるみる中和され、やがて熱めの風呂に入ったような温もりが顔全体を覆い、毛穴が開く。タオルの上から眼窩を押さえると閉じた眼の中に闇の濃淡が渦巻きながら広がり、額から頬から鼻の両脇へと拭へば、垢と汗が清められてさっぱりとする。わずか十数秒の即席の愉楽である。