渡り鳥2

 日課のように、近所の小さな公園へ越冬中の鴨を見に行く。今日は寒く、浅い池は全面凍って、鴨は一羽も見当たらない。2キロほど離れたところに広い遊水地をかかえた別の公園があり、そこは水量も豊かで、ゆるいながら水流もあるので、全面凍結まではしていないだろう。鴨たちはそういうところに一時避難するのかもしれない[注1]、と確かめに行くことにした。
 大きい公園は、川を堰き止めたダム湖とその両岸の雑木林をそのまま取り込んで、周囲に遊歩道や芝生の広場、里山の雑木林や湿原を配している。ダム湖の両岸は険しい崖で、手付かずの照葉樹落葉樹に下藪が茂り、人は水辺まで降りて行けない。東岸には公園を貫いて広い道路が走り、それと直交する大きな橋がゆるい弧を描いてダム湖を跨いでいる。この橋の上にのぼれば湖面全体が見渡せ、吹きさらしながら恰好の観鳥楼である。
 しかし、遊水地は鵜の大群に占拠され、鴨はまったくいない。鵜の大群、無慮二百羽。水面すれすれを低空飛行しながら獲物を狙っているのが数十羽、樹の枝で休んでいるのが百羽、水面に浮いているのが数十羽、さらに上空を高く旋回しているのが数十羽。鵜の大群が営巣している東岸の木々はその糞で白く染まり、そこだけ汚れた雪景色かと見紛う。林の後ろは広い道路とさらにその外側に遊歩道と雑木林が並行しているから、人家とは遠く隔てられている。人に追われもせず、食(職?)住隣接の絶好の営巣地なのだろう。対岸は崖の林のすぐ脇まで人家が迫っており、糞害や鳴声の騒音を防ぐために爆音を鳴らしたりして追い散らしているようだ。営巣地が東岸に偏るので、いっそう密集度が高まり、凄まじい糞の量である。南洋のナウルは島全体が海鳥の糞の堆積物だというから、一万年もすればここもリン鉱床を成すか。戯れにナウル公園と呼ぼう[注2]

 それにしても、池の氷る夜、鴨たちはどこで眠るのだろう。浮寝しながら腹の周りが凍ってくるのは冷たいだろう。

注1
 落語「弥次郎」のように、氷に閉じ込められて飛び立てなくなるのを予知して、飛び立つ寒夜もあるのか。

注2
 密集しての暮らしといえば、我々人間はこれに輪をかけていよう。何重にも積み重なって住み、日々の糞尿は下水に垂れ流し、廃棄物は回収されてうずたかく集積される。糞便は厚く積もり、廃棄物によって都市鉱山ができつつある。