蝉はいつ鳴き止んだか知る人ぞなし
蟻避けて象らわずかに列を乱す
裸木に実一つ寒さぶしプラタナス
枯野原煩悩枯るときやあらむ
水鏡破りつつ鷺の歩みけり
春まだき花粉宙に盈ち涕泗涸る(注1)
(注1) ここの「涕泗」はもちろん杜甫「登岳陽楼」の結句「憑軒涕泗流」からもらったものだ。涕はたまに見る字で常用漢字に採用されているが、泗はここでしか見たことがない。身体的な生々しさを具えていて、杜甫が袖口で拭うさままで想起させる。