ガリ

 寿司屋で箸休めに出るガリ(生姜の甘酢つけ)が透き通るほど薄く刻んであるのは、職人の包丁の手技ではなく、機械のスライサーで作っているのではなかろうかと疑っている。いやそれは邪推で、包丁の修業のために、見習いが一心不乱に刻んでいるのかもしれない。硬い生姜を鉋屑かんなくずのように薄く刻むには、包丁も鋭く研ぎ澄まされていなくてはならない。ものの切り方でも包丁の研ぎ方でも、素人の私らが及ぶところではない世界があるのは確かである。
 ガリも、よく作る料理の一つだ。生姜をよく洗い、凸凹の隅の泥まで丁寧に除いて、皮付きのまま、できるだけ薄く刻む。包丁がなまっていると薄く削げない。研いだ直後ですら均等に薄く刻むのは難しく、厚みにムラができる。一定のスピードでリズム正しく刻む、しかも視線は手元に向けていなくてさえよい、というような境地には到達できないだろう。
 生姜の薄切りは、沸騰した鍋に投入し、もう一度煮立つまで茹でる。茹だったらすぐざるにあけ、よく湯切りして熱いまま、用意しておいた甘酢に浸す。しばらくすると、生姜全体が薄いピンクに色づいていくのを、毎回不思議なもののように眺める。新生姜は特に発色が鮮やかである。酢と生姜の成分がリトマス紙の色の変化に似た化学反応を起こすのだろうが、どういう理屈なのかは知らない。
 甘酢は、酢と砂糖と塩を適量混ぜ、昆布だしの素を少々加えてひと煮立ちさせる。