徘徊雑句24(花鳥12)

キジの脚元にひな多童おおわらわ 雉の親子  [1]
  

早苗田の覚束なげに吹かれをり 田植えが済んだばかりの田んぼ  
  

目をみはきぎす耳羽じうをもそばだてて 草叢から頭を出した雉 [2]
  

あぜ道や刈られたる草香ばしき
  

刈り伏せる青草の血の匂い満つ
  

ドクダミの薮払われて香りす ドクダミの群落
  

真夜中の静寂離人症めけり
  

ねぎ畠うねの揺らぎや気の迷い 葱畠   
  
じゃがいもの花淡紫うすむらきに風を染む じゃがいもの花    
  
茅花つばな熟れ綿毛光を放しをり 茅花(つばな)の穂群    
  
ヒヨドリの墜ちつつたにを渡りけり 枝陰の鵯(ヒヨドリ)  
  

空を駆るつばくらめ二羽交差せり  
     
柿若葉ひかり柔らかく雨後の如
祝福の光満ちたり柿若葉    柿の若葉
  

しばし待たれよ桑の実黒く熟るゝまで 未熟な桑の実  
  
段々に歩幅狭まりて古希を越ゆ
  

命数の尽きたるか薮筍生えず  
  

花選びかねたる蝶や死するまで  花を求めて飛ぶ蝶 貧乏草に止まるアゲハ 
  

高原の風包みたるキャベツ割る 二つに割られたキャベツ  
  

内臓の輪切り見せつつ医者諭す

  


[1] 母が桑の葉を摘んでいるときに畑の中で雉の母仔を見つけ、逃げ遅れた雛を四羽捕まえてきた。雛を入れた鳥籠を、桑畑の脇の柿の木の枝に低く吊るした。母鳥は鳥籠の雛を見つけ、警戒しながらも雛に餌を運んできた。虫や葉っぱを銜えて走ってくる。雛に口移しで餌を与えると、急いで走り去り、また餌を銜えてはすぐに戻ってる。四羽もいるから大忙しである。半日、様子を見ていたろうか。母鳥の健気さに打たれ、不憫になって、雛を放した。仔たちはすぐ藪の中へ走り去った。
 その前年か前々年かに、やはり雲雀の雛を攫って鳥かごに入れて、庭の柿の木の枝に吊るし、半月ほど、親鳥が律儀に餌をはこんできて雛を育てたが、籠の中の雛を蛇に呑まれてしまったことがあって()、あれを繰り返すのは勘弁だと思ったことも大きい。
もう六十余年も前のことだ。
 
[2] よく見ると雉の頭には耳が付いている。いや耳のように見える飾り羽で、冠羽とも耳羽ともいうらしい。