産道を下る記憶の反芻でも冥府へ下る予兆夢でもないなにか

透明で冷たく硬く窮屈なチューブの中を、くぐりり抜けようとしていた。管は琺瑯のようなのに硬いまま伸縮し、じわじわ押し出そうとし、あるいは押し戻そうとし、締め付けたり緩めたり捩じったりする。くぐりり抜けようとするものが圧し潰される限界を試している。管を満たす液体は水の様にさらさらしているのに、体がこの液体で溶かされ、滲み出る体液が混ざっていくのか、ゆっくり粘りを増してまとわりつく。管が分泌する潤滑液であり、洗滌液であり溶剤でもあるか。あらゆる作用が軋み合っているのに無音だ。この管はどこに通じているのか。なぜそこに嵌まり込んでしまったのか。問うな。遊園地の巨大な螺旋の管の中を水に押し流されながら滑っていった。巨大な動物の消化器の中を下っていった。蚊の唾液腺に棲むバクテリアの一粒として針から獣の血管に注入され、白血球に捕獲され毛細血管の中を押し流されて膿になって滲み出していった。腐食土の粒子として植物の静脈を吸い上げられていった。内圧で飛び跳ねる消防ホースの中を迸る泥水の分子だった。浅い川底で腹を擦り剥きながら遡上する孕んだ鮭だった。卵管を突進する精子の鞭毛の振動にしがみついているウィルスとして、ふるえる祈る掌の指紋の溝で擦り合わされ、れる垢に潜んで内臓の隙間を這い進みついに脳に達する寄生虫に侵されて我知らず底なしの淵へ駆ける悍馬だった。かっこつけんな。氾濫した地下鉄のトンネルを水没したまま走る電車から脱出しようと藻掻く乗客の手のそよぎだ、おののきだ。