変態

 蛹は眠る。いや、たしかに死んだように眠っているかに見えながら劇しい夢を見ている。全身が夢の坩堝となって沸き返り、中枢も末梢も、頭も脚も胴も融けてどろどろに混ざり、みずからを別のもに組織し直しているのだ。蛹の殻を脱ぎ捨てる羽化は、劇しい夢からの覚醒であり、仮死からの転生だ。だから、成虫は生ける木乃伊として祈るのだ。一心不乱に唱名し、もう食うことすら止めて羽衣の舞いを捧げるのだ。  
    
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 羊水の中を浮遊している胎児は夢をみているだけではない。羊水を肺に飲み込んでは吐き出し、肺を鍛えている。産道をくぐる間、胎児は仮死状態で身を守る。押し出す陣痛の圧力で、肺を満たしていた羊水が絞り出される。それと同時に、心臓の血流が肺を経由するように一瞬で切り替わる。気道が空気に曝されたショックで仮死から蘇り、赤子は産声を上げる。肺呼吸が始まったのだ。昆虫たちの羽化にも劣らぬ驚くべき変化が瞬時に生じる。羊水に浮遊しながら見ていた夢が流れ去る。