数える

 
百まで数えるのだよ、と教わった。
子と湯に浸かりながら、親から教わったことをなぞるように、
肩まで浸かって百まで数えるのだよ、と教えた。
教えるというより、歌うように唱えた。
それが、銭勘定への偏執を生むのか、
素数への生涯を狂わす好奇を焚きつけるのか、
知るよしもない。
 
呼吸を数えるのに倦み、
歩数を数えるのに倦み、
踏んだ舗石を数えるのに倦み、
昇り降りした階段の段数を数えるのに倦み、
余命を数えるのに倦んだ。
 
女は編み物の目を数え、
数え間違えては糸を解き、
何度でも編み直して、
正確な模様を編み出そうとしている。
間違えた回数は誰が数えるか。
 
心拍数は心電計が数え、
呼吸数は呼吸器が数え、数えるまでもなくなり、
アラームが看護師を呼び、
臨終は宣告され、
死亡時刻は記録されるだろう。
 
いち、に、さん、たくさん。
それで充分だったのに。