地下道を渡る

  
付き添いの時限になり、娘を残して病室を出る。
線路をくぐる地下道へくだる。
  
長い貨物列車がゆっくり頭上を通過する。        
ゴグッ、ゴグッ、ゴグッ、
鉄の車輪がレールの継ぎ目を鈍く鳴らしながら過ぎる。
地下道は轟音の響胴となり、
列車は長く、轟音は延々と続く。
  
娘は癒えるだろうか、
歩けるようになるだろうか、
  
ゴドッ、ゴドッ、
車輪がレールの継ぎ目を渡り、
地響きが天井の明るい照明を震わせ、
照明をめぐる蜘蛛の巣を揺すり、
壁面から赤錆びた水が滲みだして側溝に垂れる。
  
轟く音に向かって叫ぶ。
叫び声はかき消される。
かき消される残響に向かってまた喚く、
黒に黒を塗り重ねる叫び、金切り声の、無音の。
  
車輪が鉄のレールの継ぎ目を踏み渡る。
ゴヅッ、ゴヅッ、
どよめきが側溝の泥水の油膜で漣を立て、
壁の剥がれかけた塗装の薄片が慄え、
照明のフィラメントが明滅する。
  
娘を病室に残してきた。
独りにされた娘は、自分はどうなるのだろう、と怯え、  
怯えて眠れない娘を想像することに耐えられず、叫ぶ。  
  
ギギッ、ギギッ、ギギッ、  
鋼の車輪がレールの継ぎ目を軋ませながら加速する。
重い荷を積んだ貨車の列が、頭上を過ぎ、延々と続く。
何を運ぶのか、何両も何両も、砲弾か、砲弾の原料か。
  
耳を聾されたまま叫ぶ。
地下道を圧する重い轟音に向かって怒鳴る。
怒号をかき消す貨物列車の轟音に向かって吠える。
轢き潰された咆哮が赤錆を滲ませる。