くすのきの新芽が芽吹く。閉じてゆるく巻いていたほの赤い若葉が、数日のうちに楕円に形を整えながら半ば透明な浅緑に開き、冬を越した暗緑の古い葉を追い越して覆うように茂る。深い海底の藻のような海老茶色の芽が、伸びて開いていくにつれ、陽の光を浴びるにつれ、赤い色素が失せ、淡い緑がさし、やがて滴るほどの緑に深まり、時間を渡るグラデーションで染める。若葉に日向ひなたをゆずって、年古りた葉は紅葉もみじし、やがて風も立たぬのにそっと散る。樹の根元に積もるほどに散り敷いて朽ちる。春落葉といい、常盤木落葉というらしい。
 しばらくすると若葉の尖にはまた別の芽が吹き、細い軸の先に淡い粒々のような花が咲く。ひとつひとつは小さく目立たぬのに、遠目に眺めると、樹冠が沸き立つような花盛りなのだった。