春の野原を歩く

コロナ禍の最中も、足の向くまま近在を徘徊する。住まいから半径2キロほどの狭い範囲なのに、とても巡り尽くせはしない。

近所の酪農家は軒並み廃業して牛舎は空。なのに、雑木林の中に開けた、その牧草地であったらしき原っぱには、草が青々と茂っている。
白つめ草の花弁に頭を突っ込んで蜜を採る勤勉な蜂。
春紫苑はハルシオンと訓むのかハルジオンと濁るのか。いずれにしても優美な名なのに、俗名で貧乏草とも。halcyonならカワセミであったり、神話の女神の名であったり、睡眠薬の商品名でもあるらしい。
焦げ茶色はもちろん日焼けではない。翅を青草の冷気で冷ますとも、さらに陽を浴びて熱を欲するとも。ジャノメチョウ。
なんの気まぐれか、私の脚に来て停まり、さあ撮せ、とばかりに上目遣いする。翅の模様が意味ありげなヒエログリフに見える。
欅の大木の幹をいともたやすくスイスイと登る蟻。樹上に営巣しているのか。

陽を浴びて光る主のない蜘蛛の巣。埃や綿毛や雨露で粘着力が減退し、放棄されたのであろうか。几帳面な形状を保って、銃撃された窓ガラスと見紛う。