鬼怒川/一九七九

熱を奪う
腰までの水
風の包囲
雲の地平
重い網を投つ さっと
空いちめんに拡がる
まなうらの血の網目を
掻きむしるようにたぐれば
折れた棒杭
聴きもらした音節群のささくれ
もつれたままかじかんでいる指
すべての
像は観念の手前で焦点を結び
ただ、ひとつかみの塩が
痛いかぎ裂きの網膜を襲う
崩れおちる雲の地平
吹きさらす風の包囲
熱を奪う
首までの泥水
喉の
吃水まで満ちてくる膿