穴掘り

空き地の地面にしゃがんで穴を掘る。
息切れがして顔を上げると男が立って、黙って見下ろしている。
足音も立てずに近づいて来たか、いや、足音にも気づかぬほど熱中していたか。
ただ、見下ろす男の目には怪訝な色も咎める風も見えない。
一度目を伏せてもう一度見上げれば消え失せる幻かもしれない。

なんと弁明をすればよいか、
何を埋めるための穴、
何を掘り出そうとする穴、
刑として科された虚しい労役としての穴掘り、
あるいは黄泉への坑道、と正直に供述するか。

逆に、何者か、とこちらから誰何すれば、
穴の脇に転がしてある死体袋も、
発掘して積み上げた埋蔵品も、
刑罰をもたらした前科も、
あるいは黄泉からの薄暗がりが、男に見とおせるだろう。

まばたきしても男は消えず、立って見下ろしている。
死体袋の腐臭は幻臭であり、
掘り当てた埋蔵品はたただの土石の山であり、
課された懲役は無期限に繰り越される。
黄泉への坑道が決潰する。